「次の休みはサイクリングでも行こうか」と思い立ち、自転車を選ぶとき。もしそこに「水素で走る自転車」という選択肢があったら、ちょっとワクワクしませんか?──そんな“未来の足”が、いよいよ現実のものとして動き出しています。今回は、山梨県甲府市で始まった、国内初の水素燃料電池アシスト自転車についてご紹介します。

水素で走る自転車が実用化されているの?
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電動アシスト自転車と言えば、一般的にはリチウムイオンバッテリーを搭載し、ペダルをこぐ力を電動モーターが補助してくれる──そんな仕組みが広く知られています。でも今回、甲府市で導入が始まったのは、なんと水素燃料電池を搭載した“電アシ”。
仕組みとしては、水素を燃料とし、空気中の酸素と反応させて発電。その電力でモーターを回し、アシストしてくれるというもの。発電時に排出されるのは水のみ。CO2を一切出さない、まさに「ゼロエミッション」のアシスト自転車なのです。
開発したのは、韮崎市にある精密機器メーカー・日邦プレシジョン。県内の山梨大学や山梨県が技術支援として関わりながら、地域ぐるみでの“水素モビリティ”推進プロジェクトが動き出しました。
さて、気になるのは乗り心地と性能。外見は一般的なシティタイプの電動アシスト自転車と大きく変わらないそうですが、水素タンクと燃料電池を内蔵しているため、重さは少し増えているそうです。約5キロ程度の増量とのことで、男性であればそこまで気にならないレベルかもしれません。
しかし、その重量の“代償”とも言えるのが、驚異的な航続距離。一般的な電動アシスト自転車が1回の充電で走れる距離はおおよそ40〜60kmですが、この水素モデルはなんと約100km。これは日帰りサイクリングにも十分対応できる性能です。
加えて、水素の充填にかかる時間も非常に短く、わずか数分で満タンにできるそうです。バッテリーのように数時間も充電を待つ必要がない点も、大きな魅力です。
この最先端の水素アシスト自転車、2024年春から甲府市役所で業務用として導入が始まるとのことですが、一般の人でも体験できるよう、富士川町の「道の駅富士川」でレンタルが行われています。
しかも、今はなんと無料。走行データの収集や水素消費量の分析を兼ねた“実証実験”という位置づけのため、予約さえ取れれば誰でも試すことができます。
これからの観光に、環境配慮型のモビリティが加わる──そんな未来の片鱗を、自分の足で確かめてみるチャンスです。
私自身、自転車に関する啓発活動や安全推進の取り組みに関わるなかで、「次に来る技術はどこへ向かうのか」というテーマには常に関心を持っています。電動化はもちろんですが、そのエネルギー源が再生可能で、かつ環境に負荷の少ないものであってほしい、というのが個人的な願いです。
今回の水素アシスト自転車は、その理想にかなり近い存在だと感じました。
・CO2を出さない
・静かに走れる
・エネルギー補給が速い
・長距離にも対応
これらの特徴は、これまで電気やガソリンが担っていた部分を水素が代替する兆しであり、自転車という身近なモビリティでその変化を体験できるのは非常に意義深いと思います。
もちろん、課題もあります。例えば、水素の供給インフラ(ステーション)がまだ全国的に整っていない点や、コスト面での問題など。しかし、こうした新技術はまず「知ってもらう」「体験してもらう」ことから始まります。
甲府市のように、自治体が先進的な技術を試験導入し、一般市民にも開かれた形で発信している姿勢は非常に評価できます。
「水素で走る自転車」──数年前ならSFの話に聞こえたかもしれません。でも今、それが甲府市の道の駅で普通に借りられる時代になっています。
私たちは、今まさに“交通の未来”を自分の手で握れるフェーズに来ているのかもしれません。大げさに聞こえるかもしれませんが、ほんの一歩ペダルを踏み出すことで、次の時代へつながる道が見える。そんな感覚です。
もし山梨方面へ訪れる機会があれば、ぜひ水素アシスト自転車に乗ってみてください。新しい風を、体全体で感じられると思いますよ。