春。入園・進級の季節ですね。保育園や幼稚園への新しい通園スタイルとして、自転車送迎を始めたというご家庭も多いのではないでしょうか。
電動アシスト付きの子ども乗せ自転車は、坂道の多い地域や、荷物が多い朝の時間帯にはとても心強い存在。でもその便利さの裏に、見逃されがちな「停車中の事故」というリスクが潜んでいることをご存じですか?
私も自転車を多く扱う業務の中で、事故やトラブルの話を耳にする機会があります。そのなかでも特に気になったのが、「自転車が動いていないとき=停車中」に起きてしまう事故の多さです。この記事では、そのリアルな実例とともに、事故を防ぐための具体的な対策をお伝えします。

「停車中が一番危ない」──幼児乗せ自転車で起きた実例から学ぶ、本当に安全な送迎とは
目次
東京消防庁の発表によると、2011年からの7年間で、幼児を同乗させた自転車による単独事故で救急搬送された件数はなんと1,443件。そのうち約8割が「停車中」に起きた転倒事故だったというのです。
具体的な事例を紹介します。
■ ケース1:「3センチの傷で7針、搬送中に嘔吐も」
お母さんが後部座席にいた下の子を降ろしている最中、前座席に座っていた上の子が、自転車ごとバランスを崩して右側に転倒。ヘルメットもベルトも着けていなかったため、顔からタイル階段に打ちつけてしまい、3センチの裂傷で7針も縫う大けが。搬送中には嘔吐も見られたそうです。
■ ケース2:「空気入れ中の転倒で顔にすり傷・鼻血」
前座席に2歳の子どもを乗せたまま停車中、お母さんが自転車の後輪に空気を入れようとした瞬間に自転車がバランスを崩し、左側へ転倒。ベルトは締めていたものの、ヘルメットは未着用で、顔面を打ちすり傷・鼻血・唇の裂傷という結果に。
どちらのケースにも共通しているのは、「前座席に子どもが乗ったまま停車中」だったこと、そして「保護者の目と手が自転車から離れていた」ことです。
前後に2人の子どもを乗せるタイプのチャイルドシート付き自転車では、前座席の方が重心の影響を大きく受けます。
前の子は「最後に乗せて」「最初に降ろす」──これが基本です。
つい後ろの子が小さいからと先に降ろしたくなりますが、前に体重が残った状態で車体を支えるのは非常にバランスが悪く、転倒のリスクが跳ね上がります。荷物を後ろに載せている場合も同様です。
SNSでもたびたび話題になるのが、「スーパーの前で、子どもを乗せたまま自転車を置いて、親が買い物に行ってしまう」ケース。
子どもが一人で座っている姿を見た通行人が「危ない!」と感じて投稿することもあります。
ほんの数分。ちょっとの間。でも、事故はその「ちょっと」の間に起こります。支えを失った車体が傾き、前座席にいる子どもが頭から転倒する。その一瞬が、取り返しのつかない事態を招きかねません。
事故防止の第一歩は、基本の装備と点検です。
- ヘルメットの着用(必須。着けない理由はありません)
- チャイルドシートのベルトを確実に締める
- ブレーキ・タイヤ・空気圧の定期点検
- サイドスタンドの強度や傾きのチェック
また、坂道での停車時は「後ろ向き」に止める、風の強い日は子どもを先に降ろす、など、状況判断もとても大切です。
子どもを乗せた自転車は、見た目以上に不安定でデリケートな存在です。特に電動アシストタイプは重量があるぶん、ちょっとした重心のズレでも転倒につながります。
便利な乗り物だからこそ、「慣れ」や「油断」に要注意。停車中でも、手を離さず、目を離さず、子どもの命を守る姿勢を貫いていきましょう。
自転車は、子育て世代の強い味方です。だからこそ、その「便利さ」に慣れてしまわず、一つひとつの動作を丁寧に行う意識が大切です。今日の記事が、皆さんの「ちょっとした気づき」になればうれしいです。事故ゼロを目指して、私たち大人ができることを、まずは足元から始めていきましょう。毎日の送迎が、もっと安全で、もっと安心できるものになりますように。
子育て中の送迎は本当に忙しく、時間に追われる毎日だと思います。私自身、子どもを抱えながら仕事をこなす方々を数多く見てきました。でも、事故が起きてからでは遅いのです。
「停まっているから大丈夫」は通用しません。
事故を未然に防ぐ一番の方法は、「気を抜かない」こと。子どもを乗せているあいだは、走っていても、止まっていても、「いま目の前の安全」が守れているかを、いつも意識したいものです。
あなたの大切なお子さんが、毎日を安心して過ごせるように。今日からできる一つひとつの行動が、未来を守る力になります。